トータルヘルス研究所/医療法人トータルヘルス タカオカクリニック 落合正浩先生インタビュー
トータルヘルスの実現に向けて 〜徹底的に人を大事にすると向き合う住環境づくり〜
「トータルヘルスの実現」に向け、クリニックの運営だけでなく、トータルヘルス研究所を立ち上げ、日々精力的に活動している医師の落合正浩先生。落合先生の考えるトータルヘルスとは、そしてトータルヘルス実現のために住宅が果たす役割とは?そこには、イキイキと生きるためのヒントが隠されていました。
単なる予防では不十分、目指すべきはトータルヘルス
高齢化の急速な進行や生活習慣病の増加、そして新型コロナウイルス感染症の大流行などを受け、健康に対する意識は日々高まっています。コンビニやスーパーなどでは健康を謳う商品が並び、もはや「健康」は生活の一つの軸になっていると言っても過言ではありません。しかし、私たちが目指す健康とは、果たしてどのような状態なのでしょう?病気ではない状態=健康でしょうか?もちろん病気にならないことも大事ですが、それだけでは個人としても社会としても十分に幸せとは言えないでしょう。
落合先生は、そうした予防活動は単なる現状維持に過ぎず、私たちが本当に目指すべきは「トータルヘルスの実現」だと言います。
「トータルヘルスとは、『個々が本来の働きをイキイキと発揮しながら、それらが見事に統合され、社会全体としても素晴らしい働きをしており、こころ、からだ、環境、経済、経財などのあらゆる面で完全なる健康体』を指します。つまり、個の脳力・能力が存分に発揮され、それらが有機的に統合されることによって、個としても組織としても素晴らしいパフォーマンスを発揮する最高の状態です」
トータルヘルス実現のキーワードは「休働食住」
個としても組織としても最高の状態であるトータルヘルス。その実現のためにはどうすれば良いのでしょうか。
「トータルヘルスの実現のために「トータルヘルス医学システム」という新しい医学システムを研究開発していますが、「トータルヘルス医学システム」とは、「トータルヘルス生活システム」であり「人本来の生活システム」です。トータルヘルス研究所では、人本来の生活行動であるという仮説やエビデンスが成立する行動を分類、体系化して『トータルヘルス行動システム』を開発しています。これらはトータルヘルス生活を構成しうる生活行動メニューシステムと言えるでしょう」(落合先生)
人の体は、受精卵が細胞分裂を繰り返して発生が進むと、胚は外胚葉、中胚葉、内胚葉の3つの層に分かれます。外胚葉からは脳神経系、中胚葉からは筋骨格系、内胚葉からは消化器系が発達します。落合先生はこの発生学的な分類に基づき、それぞれの生活行動メニューを「休」メニュー、「働」メニュー、「食」メニューと分類しました。それに加え、からだの外側、すなわち環境に関わる生活を「住」メニューとし、「休働食住」を軸に生活行動メニューを提案することで、人本来の感覚も発現させ、トータルヘルスを実現しようとされています。
| 休メニュー | 外胚葉由来臓器である脳神経系主働の生活 | 思考、言葉、音楽、睡眠など |
| 働メニュー | 中胚葉由来臓器である筋骨格系主働の生活 | 体操、施術など |
| 食メニュー | 内胚葉由来臓器である消化器系主働の生活 | 食べ方、アロマ、飲食物など |
| 住メニュー | からだの外側、すなわち環境に関わる生活 | 靴、衣服、住環境など |
(トータルヘルス研究所ウェブサイトより作成)
「良い住まい」は1名1名ちがう
このように、トータルヘルス実現のためには多方面からのアプローチが必要となり、住環境はその中の一つだと、落合先生は言います。落合先生は住まいが心身に与える影響にかねてより関心を持ち、日本建築医学協会の理事も務められています。建築医学とは、「人本来の住環境・職場環境・地域環境とは何かを研究し、実践していく医療分野」(落合先生)です。まだ認知度は高くありませんが、コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えた今、より重要性を増している分野と言えるでしょう。
では、建築医学的観点から望ましい住まいとはどのようなものなのでしょうか?その問いに対する落合先生の答えは、少し意外なものでした。
「実は、誰にでも当てはまる理想の住まいというのはないんです。たとえば機密性ひとつとっても専門家によって意見が分かれていて、とにかく通気性がいい家が良いという専門家もいれば、いやいや、機密性が高い家が良いんだという専門家もいます」
『人本来の』と聞くと何か一律のものがあると想像してしまいますが、確かに、私たちは1名1名で体のコンディションも、置かれている環境も、求めるものもちがいます。理想の住まいも1名1名ちがっていて当然だと、落合先生は言います。
「みんな一律の基準を求めますが、実はすごく個別性が高い問題なんです。1名1名脳の状態、体の状態、住んでいる場所や環境、家族環境、ありとあらゆる状況が違います。経済力も重要なファクターです。立派な家があっても、ローン地獄だと幸せではありませんよね」
一律に同じものを勧めるのは「専門家のエゴだ」と、落合先生は一蹴し、あらゆる状況を考慮してケースバイケースで考える必要性を強調します。
「たとえば、体に問題のない方にとっては段差がある家の方がたしかに脳は活性化しますが、もうほとんど歩けない方にとっては、脳の活性化よりも日常の利便性が優先されますよね。必要な刺激の強さは個々に人によってちがうということです。本当に建築医学、そしてトータルヘルス医学がまずやるべきことは、徹底的にその方人のことを測定すること。それに尽きます」
感覚を大切に!
住まい作りや住環境についてのアドバイスを専門家に求める方は多いですが、多くの場合は人本来の感覚を発現させることができれば、専門家に尋ねるまでもなく、良い判断ができると落合先生は言います。
「その方がイキイキとしていれば、たいていは正解を選びます。そしてその正解は、1名1名ちがうので、下手に専門家が口を出すようなことではないんです。たとえば、私のクリニックではアロマスクールを開講しているのですが、『これは落ち着く香りですよ』といった、感性を押し付けるような言い方は絶対にしません。いろんなアロマを体験していただくことで、自身の感覚をしっかり発現させることが目的です」
感覚的に違和感があったとしても、専門家に勧められると、それを受け入れてしまうという方も多いでしょう。しかし落合先生は「あくまで自分の体の経営責任者はあなた。専門家や医師はあくまで社外のアドバイザー」だと強調します。
心地よいと感じられる住まいを作りには、住む方自身がイキイキとした感覚を発揮することが、何より大切なのです。
家を『処方』する
受診者や担当されている組織の職員などの1名1名と向き合い、共にトータルヘルスへ至る道筋を模索する落合先生。限られた問診の時間の中で受診者などの生活の全てを把握することはもちろんできませんが、明らかな住環境の問題がある場合は、その方人に合ったアドバイスをするそうです。住環境の問題をクリアしたら体調も明らかに良くなったケースもあると言います。
「今までで一番極端な例は、雨戸を一度も開けたことがないという方ですね。ひとり暮らしの女性だったのですが、セキュリティ面の不安からずっと締め切った部屋で過ごしていたそうで、それで体調が悪くなってしまいました。雨戸を開けて換気するようになったら目に見えて健康になりました」
落合先生の提案は、患者さんごとのさまざまな環境や状況を踏まえた上で、雨戸の開け閉めや整理整頓などすぐに実践できるものから、家づくりのアドバイスにまで及びます。住宅には、音、光、内装材、断熱材など、挙げればキリがないほどたくさんの要素があります。落合先生は今、そうした住宅の多様なバリエーションの中から、その方のニーズにジャストフィットする組み合わせを提案する、つまり薬のように家を『処方』する仕組みをトータルヘルスクリニックの中に確立してきています。
「1名1名の心身の状態に応じた住環境を実現するために、現状の住まいの測定や調整や指導などを行う環境指導士(仮称)の養成、そしてハウスメーカーとの連携も含めた体に良い住宅を作りたいという要望に本当に答えられるクリニック含め、建築医学を包括したトータルヘルス医学システムの開発を慌てず着実に進めています」
薬だけでなく住宅まで処方しようという、一見突拍子のない落合先生の構想。それは、一律の基準を求めるのではなく、誠実にとことん1名1名の心身や環境に向き合った結果として生まれたものでした。最高の状態である「トータルヘルス」の実現に向け、落合先生は今日も受診者や担当されている組織の職員などと向き合っています。
How it AFFECTs us? 環境は私たちにどんな影響を与えているのでしょうか
環境はあなたの脳の現れであると同時に、空気や色や形、香りなど、物質的・感覚的・情 報的な栄養である。いい体を作るためには、いい栄養が必要。
落合正浩先生