環境からつくるウェルビーイング

株式会社カラーワークス取締役副社長、カラーデザイナー 秋山千惠美さんインタビュー

色によって感情が変わる? 色彩のプロに聞く、色の力と生活への取り入れ方

日本では「壁は白が美しい」という固定概念が根強く、壁に色をつけることに強い抵抗感を持つ人はまだまだ多いです。そんな中、色の持つ力を信じ、住宅の中に簡単に、そして安価に色を取り入れる方法としてペイントを提案するカラーデザイナー秋山千惠美さんにお話をお伺いしました。


色の持つ力に魅せられて

昨今、カラーデザインやカラーコーディネートという言葉を耳にする機会が増えました。しかし、インテリアや家具の配色を単なるおしゃれとしてではなく、色が私たちに与える影響まで意識して色選びをする方は、まだまだ少ないのではないでしょうか。

「色は人間の感情に大きな影響を及ぼします。たとえば、落ち着く、楽しい気分になる、なんだか重苦しいなど、色によって受ける印象はさまざまですよね」(秋山さん)

そう言って秋山さんは振り返り、背景の黄色い壁を指差しました。

「たとえば、黄色い色は元気に見えますよね。なので、今日みたいに取材のときはこの部屋を使うことが多いんですよ」

そう言っていたずらっぽく笑う秋山さん。確かに、画面越しでも秋山さんのパワーが伝わってくるような、アクティブな印象を受けます(もちろん元々のお人柄もあるのでしょうが)。

Image description here

色の持つ力にすっかり魅せられた秋山さん。色の力をもっと多くの人に知ってほしいと、店舗から一般住宅まで、それぞれの状況に合わせた色を提案し、幅広く活躍されています。

色の効果で売り上げアップ!?

感情面への影響に加え、色は機能的な効果も持つと秋山さんは言います。

「配色を工夫することによって、さまざまな機能が期待できます。たとえば、アメリカでは工場施設を設計する際、色彩計画を作ることが一般的です。運び出す荷物の箱を淡い色にすることで軽く見せたり、長い廊下をストライプに塗ることを短く見せたりするのですが、こうした色の工夫によって、働く人の疲れが軽減されますし、危険回避の役割もあります」

通信販売会社の色彩計画を請け負った際も、ロッカーの色やベルトコンベアと床の色に差をつけることで効率が上がり、ミスも減ったという報告を受けたと言います。

さまざまな店舗や工場などの色彩計画に携わってきた秋山さんですが、なかでも、顕著な効果があったのはスーパーマーケットでした。

「スーパーマーケットは、蛍光灯があって明るければそれで十分とされていましたが、色を工夫することで売り上げがアップしました。色の工夫は、何も壁や棚に色をつけるだけではありません。たとえば、アボカドみたいな茶色いものの隣には黄色いものを置く、トマトと緑の野菜を並べるといった商品の配置の工夫でも、食べ物をより美味しそうに見せることができます。お刺身の下に大葉が敷いているのと同じ効果ですね」

スーパーでは、たとえばいつも10品買う人が11品買えば、売り上げは1割アップになります。まだ色の問題意識を持っているスーパーは多くはありませんが、色の効果が顕著に現れやすい業種と言えます。

「壁は白」という固定概念との戦い

住宅は店舗以上に、色を変えることに対する抵抗感を持つ人が多いと秋山さんは指摘します。

「日本人は、住まいの壁は白が美しい、白が安心という固定概念を持っています。住まいに色をつけることへの抵抗感は非常に強く、いつも難しさを感じています。しかし、白すぎる壁は100%光を反射するので目が緊張してしまい、圧迫感もあるので、本当は子ども部屋や寝室などには適さない色なんです」

秋山さんが取締役副社長をつとめるCOLORWORKSでは、カーテンやラグを変えるよりも簡単に、そして安価に部屋の印象を変えることができるペイントの販売に力を入れています。

Image description here

「たとえばリビングの壁一面だけでも、色を変えるとガラリと印象が変わります。古い住宅でも、ペイントで色をつけると新しく蘇らせることができます。きちんと塗れるか自信がないという方も多いですが、実は誰でも簡単に、ムラなく塗ることができます。家族みんなで塗装を楽しむ方も多いですよ」

Image description here

しかし、いきなり壁一面に色をつけるのはちょっと……という人には「ハーフペイント」という選択肢もあると、秋山さんは言います。

「腰から上だけ、あるいは腰から下だけペイントする『ハーフペイント』でも、お部屋の印象はずいぶん変わります。それでもハードルが高いと感じるなら、新聞紙一枚分くらいの面積でもOKです。いきなりフルマラソンと言われると引いてしまいますけど、ハーフマラソンならチャレンジできるかな、というのと同じ発想です(笑)」

Image description here
ハーフペイントの事例

また、COLORWORKSでは古いものにペイントをすることで新しく蘇らせる「アップサイクル」も勧めています。古くなった家具なども、ペイントすることで新しく生まれ変わります。古いものを大事に使うアップサイクルは、サステイナビリティの観点からも、近年注目を集めています。

コロナ禍での変化

「壁は白」という固定概念がまだまだ根強い一方で、コロナ禍で家で過ごす時間が増えた今、日本人の住宅に対する意識は変わりつつあると秋山さんは感じています。

「おうち時間が増えたことで、家の中を見渡す時間も増えました。オンライン会議などで、部屋が見られるという意識が芽生えたことも、関係しているかもしれません。インスタグラムなどで、海外のおしゃれな部屋などが簡単に見られるようになったこともあるのでしょうね。COLORWORKSのECサイトでのペイントの売り上げも伸びています」

Image description here

また秋山さんは、色を変えることは単なるおしゃれではなく、リラックスや元気になるなどの具体的な効果があることが認知され始め、ペイントに興味を持つ人が増えたという印象も持っています。

「これまで、日本では駅からの距離や広さ、セキュリティなど住宅のスペック面ばかり注目されてきましたが、近年になって、自分がどう暮らしたいのかという観点や、自己表現としての住まいという側面が注目されるようになってきました。そうした中で改めて、色は自分の気持ちにリンクするものだということを私自身実感しますし、もっと多くの人に伝えていきたいですね」

子どもに「色育」を

秋山さんは、子どもの頃から色について意識し、色の力を実感する経験を積み重ねることで、色の感覚を養う「色育」の重要性を強調します。

「たとえ部屋の中の壁は白一色だったとしても、一歩外に出れば色に溢れた世界が広がっています。私たちは好む好まざるにかかわらず、色と関わって生きていかなければなりません。その中で、自分の色のチョイスが気持ちまでも左右するということを知り、色に対する自分なりの世界観を持って欲しいと思います」

また、子ども自身の選択を尊重することも大事だと、秋山さんは言います。

「実は私たち人間は、生まれた時から大人と同じ視力を持っているわけではありません。色に関する視覚は徐々に発達し、10歳ごろにようやく完成します。だから、子どもは赤や青などのわかりやすい色を好むんです。大人からすると『もっと落ち着いた色の方がいいんじゃないの』と言いたくなりますが、子どもの見ている世界は大人とは別だということを念頭に置いておかなければなりません」

色育の例として、秋山さんはCOLORWORKS広報担当の灰野洋子さんのお宅のエピソードを紹介してくれました。

灰野さん宅の子ども部屋を、娘さん自身が選んだ色で初めてペイントしたのは、彼女が4歳のときでした。そのとき娘さんが選んだのは、明度の高いピンクでした。灰野さんは「正直、もっと明度を抑えた色合いの方がいいのではと思った」そうですが、ぐっと我慢して、娘さんの選んだ色を一緒に塗りました。塗り終わった娘さんは、自分が選んだ色に非常に満足して、自信がついた様子でした。それまでは自分一人で子ども部屋にいることはできなかったのが、部屋がお気に入りの空間になったことで、一人で過ごせるようになったという嬉しい変化もありました。

その2、3年後、小学2年生になった娘さんが自分から「壁の色を変えたい」と切り出し、今度はピンクから一転、落ち着いたネイビーを選びました。そして驚いたことに、娘さんは「ピンクの時はすごい楽しい気持ちで目が覚めたけど、ネイビーになってすごく落ち着いた気持ちで目覚めるようになった」と感想を述べたそうです。まさに、色の持つ力を身を以て知る、娘さんにとって貴重な体験となったのです。

日本の住宅では、白以外の壁はまだ一般的ではありませんが、一度色のある壁に慣れると、真っ白い壁にむしろ違和感を持つようになります。灰野さんの娘さんも、通っている学習塾の真っ白い壁に「目がチカチカして集中できない」とこぼしているそうです。

「小さい頃に色のある生活を経験することで、色があることが普通だという認識になります。色の感覚を養い、色の持つ力をうまく生活の中に取り入れることが普通になって欲しいですね」(秋山さん)

How it AFFECTs us? 環境は私たちにどんな影響を与えているのでしょうか

「色を知れば世界が変わる」というのが私の信念です。
色はさまざまなメッセージを持っていて、さまざまなことを教えてくれると同時に、私たちの心にも直接影響を与えます。

秋山千惠美さん

一般住宅から企業、店舗まで、空間の色や商品の提案・アドバイスに幅広く活躍するカラーデザイナー。色に関する知識とスキルを駆使し、カラーマーケティング、マーチャンダイジング、プランニングやセミナーなどを行う。 『カラーワークス』のオリジナルペイント「Hip」(グッドデザイン賞受賞)では、色の開発も担当。インテリアカラーの第一人者として知られ、色彩を研究・分析する米国カラーマーケティンググループの日本人唯一ボードメンバーでもある。

『今すぐためせる、住環境をより良くするコツ』 - Tips for your house -

Slideshow Items

::